vol.2 漫画の味をアニメで活かす
‐‐‐‐石井さんにとって、ルパン三世ファーストシリーズの魅力って何ですか?
石井 そうですねー、やっぱ質感ですかね。
三木 シズル(注:1)ですか?(笑)
石井 シズルですね~(笑)。手の形とか。袖ぐりの丸い感じとかね。
三木 あー、手の形は好きだよね。
石井 HAL & BONS(注:2)でもいかされてます。っていうか、そのままパクってます。(笑)
三木 CGの犬のキャラクターが主人公の話なんですけど、手の形がルパンの手を真似てるんです。
おおすみ そうか~、なんか手だけ、顔と違和感があると思ったら、そういうことかぁ(笑)。
石井 大塚康生さんの指示書を参考に…。
おおすみ ルパンっていうか、次元でよくその手を描いた気がするなぁ。むしろルパンはもうちょっとスマートな手でいいんじゃないかっていう意見持ってたんだよね。
次元はゴツゴツしたブローニング(注:3)を握った時の、あの節のある手ね。
石井 いいですよねぇ!ホント、まんま僕パクってますからね(笑)
三木 (HAL & BONSのパンフレットを指しながら)これ大塚さんの指示書じゃーん、HAL & BONSのじゃないじゃーんってね。(笑)
石井 大塚さんの指示書を、犬の質感にしてCG部に渡したの!(笑)
おおすみ これひょっとしたら、アニメの設計図からとったんじゃない?
石井 そうです、そうです。
おおすみ え?設計図なんて手に入ったの?
石井 ありますよ。本とかも出てますし、昔のルパン特集のコーナーとかでもあります。
おおすみ ルパンをはじめるまえに大塚さんと、ルパンの手は特別だから手のモンキータッチは再現しようって、かなり意図的にやった記憶があるんだ。だから石井さんはすごいよ!ルパンの中でも手に注目するなんてね(笑)。
‐‐‐‐おおすみさんは、どうしてそんなに手にこだわって作ったんですか?
おおすみ 当時の漫画にはなかったから。あのタッチが。いかにも職人というか、プロフェッショナルってイメージの手なんですよ。握られるのが拳銃なのか、何なのかは別として。何かを扱いなれしている人間の手なんですよ。
石井 大概、漫画って手がちっちゃくなっちゃう。
おおすみ そう。それで、丸っこく描くもんなんですよ漫画の手って。今でも僕は原則はそうだと思うんだけどね。モンキーさんの絵ですごいなと思うのは、絵全体が与える印象としては、丸みがある。漫画らしい。ご本人もリアルだということは評価されてもいいが、劇画といわれるのはちょっと、という考え方があってね。やっぱり漫画派だからね。でも漫画派の中でも、一番劇画的なリアルな表現、リアルなコンテンツに対応できる絵をもってて、だからテレビで本物の拳銃や車をだそうとかいうのに、「お、それでいける」ってピタッときたんだよね。
三木 へぇ。
おおすみ 普通それやろうと思ったら、描き込んだ劇画調じゃなきゃ合わなかったんだよね。モンキーさんは、ずっと漫画の味を捨てないで持ってながら、リアルなんだよね。
石井 なるほど。
おおすみ 今、大学で研究しているキャラクター開発で、漫画のスタイルと、取り扱う物語のコンテンツとが、どのくらいの許容度がもてるか研究をしようと思ってるの。アニメ会社からのバックアップもあってね。
三木 へぇ、それはどんなプロジェクトなんですか?
おおすみ ようするにキャラクター・イノベーションというかな。キャラクターのスタイルを大きく7種類に分類するんですよ。もちろん本当はもっと多く分類できるんだけれども、7種類位がちょうどいい。たとえば端にサンリオのキティちゃんとか、ブルーナのミッフィとかがいて、もう一方の端には さいとうたかを先生とか影まで書き込んであるようなスタイルがある。で、その間のちょうど真ん中辺りに、先ほどお話した漫画派、手塚さんやら石ノ森章太郎やら、ほとんどのメジャーな漫画家が入るわけです。その間を埋めていって横の様式ををつくり、さらに今度は縦にそれぞれアイテムやセットを足していく。最終的にはマトリックスにしてコンテンツとの関連を探る。最後のミソは、キャラクターは「顔(表情)」ってことになるんだけど、漫画家の描く表情の在庫には限界があって、ある一定量生産しちゃうと、それ以上描け描け言っても結局同じ顔で髪型を変えただけってことになっちゃう。これはデータでもはっきりしている。そこで漫画家個人のアーカイブをつくっちゃおうと。
三木 へぇ、なるほど。
おおすみ このプロジェクトは、企画開発という側面があって、漫画家本人ではなく漫画家と一緒になって作品を作っていく、プロデューサーのためのシステムなんです。
三木 壮大なプロジェクトですねぇ!
おおすみ 実際問題、こういうことがあってね…。アニメ界では常識なんだけど、ちょっと出てくる通行人とか、お巡りさんとかはアニメの作画家が描くんだけど、僕はそれが嫌いでね。大塚さんに描いてもらったりしてたんだけど、大塚さんの絵は癖があって、モンキーさんの絵を離れて自由に描くと、まるで違う絵になっちゃう。街の通行人ひとりといえども、モンキーさんの絵じゃなきゃ嫌で、モンキーさんに頼んだんだけど、あの人も無精者でね(笑)、「それはありがたいけどね、ちょっとねー」なんて言われちゃって。その時にすでに今の研究と同じことやってたんだけど、「モンキーさん、悪いけど、あなたの原作の中から好きな顔使わせてよ」って、それで服装と髪型だけ変えて、最終的に「モンキーさん、これどう?」って見せたら「あ、いいねぇ!」って(笑)。全部それで終わっちゃう。結局、書き下ろしせずに済むから、ある意味、漫画家を解放するシステムにもなるな、と。だから、今でも本気で調べる気になったら、このアニメにちょこっと出てきた、このキャラクターは原作のどこにいるか、とかって探すこともできるんだよね(笑)。
三木&石井 へぇー!
注:1 シズル・・・臨場感のあるニュアンス を表現する語として用いられる映像業界用語。
注:2 HAL & BONS(Grasshoppa!)
注:3 ブローニング・・・弾倉が蓮根型で回転する拳銃。プロはオートマティック型よりも確実性の点でこちらを使う。
三木俊一郎監督
1968年生まれ。東京都出身
武蔵野美術大学卒業。葵プロモーション入社後、CMディレクターとして数々の国際的な賞を受賞。特にファンタのCMなどで見せるナンセンスなギャグ表現に定評がある
石井克人監督
1966年生まれ。新潟県出身
武蔵野美術大学卒業。東北新社に入社後、CMディレクターとして働く傍ら、多数の映像作品を手がける
クエンティン・タランティーノのファンとして知られ、『キル・ビル Vol.1』ではアニメパートを担当した
主な監督作品:鮫肌男と桃尻女、PARTY7、茶の味、ナイスの森、HAL&BONS
ナイスレインボー
三木俊一郎監督、石井克人監督、ANIKI(伊志嶺一さん)によりクリエイターユニット“ナイスの森”を2003年に設立。同名の劇場映画を制作。 2006年10月に株式会社ナイスレインボーとして現在活動を続けている
次回更新は6/17の予定です
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