vol.1 劇団飛行船との出会い
坂本 私は父親の仕事の関係で、本当に小さい時からおおすみさんの演出していた劇団飛行船の客席にいたんですよ。恐らく一番最初に演劇に触れたのが飛行船だったと思います。
おおすみ それが、今もお芝居を続けて居られることと、繋がってるとすると感慨深いですね。
坂本 2歳くらいの時に初めて連れて行かれた時には、「暗転で泣かないか」を母が心配していたそうです(笑)。
おおすみ へぇ(笑)
坂本 もう25年くらい前の話なんですけどね(笑)。それでまぁ大人になって、自分がステージに立つ仕事をしているということに、少なからず影響を受けていますね。
おおすみ 僕は子供向けの仕事をずっとやってきましたが、子供相手の舞台は客席からの反応はありますが、感想って形では伝わって来ないんですよ。だから、そういうのは諦めていたんです。けれど最近、ルパンなんかを見ていた子供が、今では40代くらいになっていて、仕事場などで会うと「あの頃の…」なんてうれしそうに話し始めるんですよ。それで「あぁそうか、子供相手の仕事でも、時間が経てば感想が聞けるんだ」と。予想もしていなかったことです。
坂本 そうなんですかぁ。
おおすみ ええ。けれど僕が座付きで演出をやっていた「マスクプレイミュージカル劇団飛行船」なんかは、テレビのようなマスコミではないから広範囲から反応を確かめるような、そういう機会がないんですね。だから今日お会いできるのを大変楽しみにしてました。
坂本 私の小さい頃のお芝居の記憶は、飛行船の思い出ばっかりですね。父親に楽屋に連れて行ってもらった時に印象に残っているのは、マスクプレイミュージカルって中に人が入ってるじゃないですか、で魔女が出てくるお芝居の時に、魔女の中から男の人が出てきたのにはビックリしました!あと、小道具を触らせてもらったり、舞台裏を見せてもらって、すごく奥行きのあるセットだと思っていたのに、裏を覗いてみると書き割り(注1)だったりとか(笑)、子供のうちから随分知っていたなぁと思いますね。
おおすみ あまりいい観客じゃなかった(笑)、あまり子供のころはお芝居の裏側とか知らないのが普通ですからね。
坂本 (パンフレットをみながら)わぁ懐かしい!私、特にこの「オズの魔法使い」が大好きだったんですよね~。
おおすみ あ~、魔女から男の人が出てきたってのは、その芝居だね。(笑)。
坂本 (声優の配役欄を見て)私、小学生の頃から吹き替えのお仕事をさせて頂いていたんですが、飛行船で声をやられているテアトル・エコー(注2)の方とよくお仕事で一緒になって。
おおすみ へぇ。
坂本 お芝居の中のあの声の人だって思いながら、「いつも飛行船みてます」って言ってました。
‐‐‐‐その経験って、すごく特殊ですね。
坂本 うーん、でも自分ではあまり特別なことをやってる意識もなかったですし、すごく生活の中に入っちゃってたというか、お芝居というものが。
おおすみ 当たり前というか、地続きだったんだろうね。
坂本 習い事みたいな感覚でしたね。
おおすみ 別世界に入っちゃったとか、そういうカルチャーショックがなかったんだね。
坂本 そうですね。入った劇団が特殊だったというか、「こまどり」っていう劇団なんですけど。
おおすみ ああ、「こまどり」ね。
坂本 ふつうオーディションなんかですと、みんな「おはようございます!」なんて挨拶して綺麗な格好をして来るんですけど、こまどりの子たちは、いい意味で本当に普通なんですよね。プロフィール写真なんかも、先生が「この使い捨てカメラ3枚余ってるから、ハイそこの3人撮っちゃうよ」みたいなかんじで、赤目でもそのまま提出しちゃうみたいな(笑)。みんなも兄弟のお下がり着て行って、鼻水出てる~みたいな(笑)。
おおすみ いいな、そういうの(笑)。
坂本 CMソングの仕事とかも、いわゆる綺麗に歌うとかはできないんですけど、逆にそれが小学生らしいと受けてお仕事をもらってるかんじでしたね。そういう劇団だったので、「お仕事」という感じではなかったんですよね。みんなが塾に行ったり、ピアノのお稽古に行ったりするかんじで、私は演劇に関わってるっていう。
おおすみ へぇ。
坂本 月謝もビックリするぐらい安くって(笑)。10人ほどの少人数で、先生も一人でした。その先生が、社長でありマネージャーでもあったんです。それが肌に合ったみたいで大学卒業するまでずっといました。
おおすみ それは、本当にいいところへ入ったなぁ。
坂本 そうですねぇ。そう思います。私を最後に子供をとらなくなってしまったんで、今ではもう「こまどり」はないんです。私はこの劇団に入ったことで、"演じる"とか、"歌う"とかいうことを、嫌いにならなかったんですよ。劇団のムードのお陰だったと思いますね。ビジネスと思ったことも、良い意味でも悪い意味でも大人になるまで思ったことがなくって、演劇が好きでいられる環境だったんですよね。本当にありがたいです。
(つづく)
注:1 書き割り・・・臨場感のある町並みや山などを大きな板に描きつけて情景描写する舞台美術
注:2 テアトル・エコー(wikipedia)
坂本真綾さん 略歴
東京都出身 1980年3月31日生まれ
血液型:A型
幼少より海外ドラマや映画の吹き替え、アニメの声優として活躍
15歳から本格的に音楽活動も開始し、各方面から高い評価を得ている
東宝ミュージカル「レ・ミゼラブル」エポニーヌ役は6年目に突入
女優、声優、歌手、ラジオパーソナリティ、執筆など多彩な才能を発揮し、活動を続けている
次回更新は1/27の予定です
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