vol.2 舞台から逃れられない運命
‐‐‐‐子どもの頃、飛行船のお芝居は何度も見に行かれてたのですか?
坂本 一作品につき何度も行ってましたね~。だからこそ、やっぱり劇中の歌も歌えたし、小さい頃は何度も行くものだと思っていました(笑)。やっぱり積み重ねで、身近にあった演劇は飛行船でしたからね。客席から観ることも、舞台裏に行くことも好きだったんですけど、なんか8歳の時に突然、舞台上から客席を見たいなと思ったんですよね。
おおすみ ほう。
坂本 自分でもわからないんですけど、朝起きて突然言ったんですよ、「演劇がやりたいなぁ」って。それはテレビで子役がお芝居しているのを見て、「こういう子はどうやって、テレビに出てるの?」と親に聞いたら「子供が入る劇団があるのよ」って。「あ、そうなんだぁ」って思ったんですよね。それで何日か後に突然「私もやりたい!」みたいな(笑)。でもテレビへの憧れではなくて、どちらかというと舞台への憧れでした。
おおすみ その頃から一貫して舞台なんだね。飛行船の責任も重いね(笑)
坂本 そうですね~。でも実際は、舞台というものに立つのは随分後になってからで、吹き替えとかナレーションとか声の仕事が多かったですね。舞台に立つきっかけは特になかったんです。でも、なんて言うんでしょう、他に取り柄のない子供だったんですよ(笑)。勉強ができたわけでもないし、スポーツも得意じゃないし、得意なものが特になくって、何か自分で打ち込めるものっていうのは、ピアノとか一応習わされたこともあったんですけど、どれも長続きせず。で、自分で「やりたい」と言い出したものだけ続けられたっていうことですね。
おおすみ "宿命"なんて言葉使うと大げさだけど、物心付いた頃から舞台をそばで見てたんだから、そういう仕事の素質が育っていたのかもしれないね。
坂本 私より先に親は、いつか言うだろうとは思ってたみたいですね。
おおすみ あ~やっぱりね(笑)。
坂本 あまり驚かなかったですもん。小さい頃から飛行船のお芝居を見に行って、家に帰ってくると印象的なセリフとかをずっとマネしてました。あと、干してある洗濯物がピュ~っ飛んでいくシーンのある芝居・・。
おおすみ ああ、オズの魔法使い。
坂本 そう!その仕掛けを家で作ってマネしてました(笑)。テグス(注1)とか使って!
おおすみ もう家にいるって感覚じゃないんだ実際に本番でやってもらえばよかったなぁ!(笑)。でも、ほんとうに家と舞台は地続きだったんだね。その頃は演じる側ではなく、裏方の方が興味があったのかな?
坂本 そうですねぇ、学芸会とかも好きじゃなかったですし、子供の時は前へ前へという性格ではなかったです。そういうことで演劇をやりたい、スポットライトを浴びたい、という気持ちとはなんか違ったんですよね。ひねくれた子供だったんですよ(笑)!自分でもよくわからないんですけどね。
おおすみ まぁ、子供の時からすり込まれていたのなら、他の職業は選べなかったかもしれないね。
坂本 あぁ、そうですね~。
おおすみ 中村鴈次郎さん、今は名前が変わって坂田藤十郎(注2)さんから聞いたんですが、どうやって歌舞伎俳優の息子達が、なぜみんなあれほどやる気に育つのか、厳しく仕込むっていうやり方だけではその反動で嫌になるってこともあるハズなのに、いつの間にか本気でやる気になっている。それはなぜかって聞くと、結局小さい時、物心付いた時に散々舞台を観させることだって。舞台を観ることが日常となり、楽屋に出入りすることが日常になったら、そこから逃れられなくなる(笑)。
坂本 あ~!じゃあ、私も飛行船の舞台からのすり込みだったんですね!舞台から逃れられない運命なんだぁ(笑)
おおすみ 僕は、子役使う映画を撮ってたんだけど、子役の寿命は、子役時代で終っちゃうことが多いんです。子役として知名度が上がれば上がるほど、そうなんだよ。僕がやってたテレビの「ケンちゃん」シリーズの主役の子も、作品がヒットして人気子役スターになっちゃたから大変でしたよ。結局大人になってからイメージチェンジがうまくできなかった。・・・その辺の苦労はあったんですか?
坂本 そうですね。そんな深刻なものではなかったんですが、子供であるだけでかわいいとか、子供らしいとかを求められてやっていた時には、無邪気にやっていても褒めて頂けたんですけど、だんだん歳とともに求められるものが高度になってきたんです。
おおすみ それは自然だね。でも、そういうケースって少ないんですよ。
坂本 中学、高校くらいで初めて、もうちょっと何かやらなければいけないのかな?と思いました。でも、それ以外は、たとえば劇団の方針として学校は絶対に休ませないってのがあって、学生としての自分は普通に過ごせたんですよね。良くも悪くも、あんまり子役としてどうの、とか無いままにきましたね。
おおすみ ラッキーでしたね。どんなマネージャーがついているかで大きく変わってくる。子役をぎりぎりまで引っ張ってやれ、と引っ張りすぎちゃうマネージャーと、早めに脱皮を考えてあげるマネージャーとの違いが出る。
坂本 そうですねぇ。その時はわからなかったのですが、大人になってから"守られてたな"って思いますね。いわゆる芸能界と言われるところで仕事をする中で、学生としての時間を守ってもらえた、また進学したいと言えば環境を整えてもらえたし、物理的にも気持ちの面でも、両親や劇団の先生に本当に守ってもらってました。女優としてとかタレントとして成功することよりも、人として成長していくことを見守ってくれる人が周りにいたんだなと思います。
おおすみ 自分の歩調に周りが合わせてくれてるんだ。それは、すばらしいことだね。
坂本 そうですね、めぐり合いですね。運がよかった。
(つづく)
注:1 テグス・・・釣りに使われる透明で引っ張りに強い糸。舞台にも使われる
注:2 坂田藤十郎(wikipedia)
坂本真綾さん 略歴
東京都出身 1980年3月31日生まれ
血液型:A型
幼少より海外ドラマや映画の吹き替え、アニメの声優として活躍
15歳から本格的に音楽活動も開始し、各方面から高い評価を得ている
東宝ミュージカル「レ・ミゼラブル」エポニーヌ役は6年目に突入
女優、声優、歌手、ラジオパーソナリティ、執筆など多彩な才能を発揮し、活動を続けている
次回更新は2/3の予定です
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