vol.3 原作者トーベヤンソンとムーミンの時代背景
大塚 やっぱりね、ムーミンの原作にあったノーマネー、ノーカー、ノーファイト(注:3)のあの世界を、原作とはちょっと違うかわいらしいキャラクターにする、キャラクターを変えようっていう判断はあの時代においては確実に正しかったと思いますね。
おおすみ 僕はね、今、一番残念なのは、今さらどうしようもないんだけど、トーベ・ヤンソンと膝を交えて、話しをしとくべきだったと後悔しているんです。彼女と話をちゃんとしたらわかりあえただろうなと。
大塚 それは本当そう思いますね。
おおすみ ノーマネー、ノーカー、ノーファイトは、ムーミン見てもらうとわかるけど、まさにその思想で作っているんですよ。第6話見てもらうとわかるけど、クラシックカーがでてくると、すぐパンクする。パンクの修繕からはじまる。スノークがいろんな文明を持ち込もうとするけれど、全てが失敗している。そういうテーマで一貫している。テーマはノーマネー、ノーカー、ノーファイトなんですよ。だけど、表現のレベルでは、ビジュアルとして車はでてくる。それはくるま社会を否定するためにというドラマの初歩的な手法を使っているんで、ヤンソンさんは本当はわかってくれてるはずだなと信じてた。
大塚 キャラクターが違うとかね、筋の組み立てが違うとか、ヤンソンさんがお怒りになったことはよくわかるんだけど、僕らとしては、あのままだとあんまり静かすぎて、ドラマにならない。日本的なキャラクターと起伏のある筋立てでないと世間に出せない、ドラマに書き換えたのは、特におおすみさんの力が大きかったと思うんですよ。
おおすみ ラルス・ヤンソンという原作者の弟さんが描いたムーミンのコミックス版があります。代理店から参考までにと届けられたので目を通すと、実に自由にアレンジしている。それが一つのよりどころになった。僕らのアレンジもそのコミックス以上にははみ出していないという自信があった。だからテレビ化は絶対大丈夫だろうと。あとになって、弟さんののコミックスにも原作者は不満があったとか聞いたけど、テレビ化が決まると、そのコミックスの日本語版の出版が許可された。それは今でも流通しているわけですよ。身近にいる弟だから辞めろといえたのに、その後も長期にわたってに描かせていたということは、どういうことなんでしょうね。神経質ではあるが、意外に懐の広い人かも、と・・。
注:3 ノーマネー、ノーカー、ノーファイト・・・お金、車、戦いを描かないという意味
大塚康生さん 略歴
1931年島根県生まれ
東映動画アニメーター第一期生。日本におけるアニメの創生期から第一線で活躍。
宮崎駿さん、高畑勲さんの先生であり、まさに日本の近代アニメーションにおける礎。アニメーターの父と云うべき人物。
元麻薬Gメンという異色の経歴を持ち、軍用車両に造詣が深く、ジープマニアとしても有名。
現在は一線を離れ、スタジオジブリや東映アニメーション研究所などで後進の指導にあたっている。
日本アニメーター・演出協会 (JAniCA) 会員。
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